<殺人鬼>で思い出した31年前の記憶
ペンを持つことになった強烈な動機
『灰色のベンチ』の管理人から<前科者の殺人鬼>と名指しされた私だが、あることが鮮明に甦って来ました。それは今から31年前のことです。この件がなかったら、私のモノ書きとしての人生もなかったでしょう。
ペンを持つ人間は、誰でもそのキッカケというものがあるはずです。どうしても何かを伝えたい、訴えたい―、そのような強い動機があって、この世界に入るのではないでしょうか。
私の場合、灰色のベンチが使ったこの殺人鬼という言葉こそが、まさにそれでした。故に忘れかけていた記憶が呼び戻されたのです。もし、この今回の<殺人鬼>という言葉がなければ、記憶の彼方に置き忘れてしまうところでした。
私は逮捕され裁判を受けるために、拘置所に収監されました。私はそこで約9ヶ月過ごしましたが独居房でした。野外運動の短かい時間だけは、刑務官と会話をすることが許された。
:刑務官「お前、無罪を主張しているようだけど、そういうケースはほとんどないよ」
:私「…」
:刑務官「でも、一人の殺人鬼がつい最近、無罪を勝ち取って出て行ったがな」
:私「どんな人なんですか?」
:刑務官「ああ、朝鮮人でな強盗殺人で無期懲役の判決を受けて刑務所にいたんだが、仮出所して娑婆にいたんだよ。そこでまた強盗殺人をやって、逮捕されたんだが、無罪を主張して勝ったんだな」
この頃の私は初めての経験ながら、逮捕・留置所・拘置所・裁判所という司法権力の中で、孤立して戦っていた。自分の声が伝わらない。その苛立ちがやがては反権力を志向するようになっていた。
やがて社会に戻った私は、自分の件で司法権力を告発することには無理があることは承知していた。そのようなインパクトのある事件でもないし、言ってみれば恥ずかしいことでもあった。
私はこの拘置所の中で聞いた、この在日朝鮮人で殺人鬼と呼ばれた男を訪ねて見ることにした。
彼の名前は除才喜と言い、私が訪ねた時は、長期間に渡る拘禁生活の中で体を壊し寝ていた。
私は何度か彼の家を訪ねて、ことの経過を聞いた。彼は在日朝鮮人として生まれ、なぜ、自分は在日として生まれたか、その自らの人生に真摯に向き合うことが出来ずに、若い頃から非行に走ってしまった。
そして20歳代の前半に強盗殺人を犯して無期懲役の判決を受けた。強盗殺人という罪名から殺人鬼などと呼ばれたものであるが、まじめに努め仮出所をもらって社会に復帰した。
日本人と結婚し小さな食堂を開いた。
その食堂の近くに小学校の校長までした女性が一人住んでいたが、その家が強盗に襲われ殺された。警察は強盗殺人の前科がある彼を先ず疑い出した。
近所の聞き込み、尾行…自分が疑われていることは、すぐに分かったそうである。次第にお店にお客が来なくなり、噂が広がって出前の注文も途絶えてしまう。
日々の生活にも困窮した彼は、「車でローン貸付」というビラを見つけ、その会社からお金を少し借りた。5万円ほどだったと思います。それから数日後、自宅と店にがさ入れが行われ彼は逮捕された。
容疑はまだクレジット代金が残っている車を担保に金を借りた詐欺容疑であった。毎月のクレジット代金が終了しなければ、確かに名義は本人のものではない。
しかし、乗っている車は多くの人は自分のものであると思っており、このような車金融はほとんどが残金が残っていても貸してくれるものである。しかし、それが詐欺事件となってしまった。
これは明らかに別件逮捕であり、本筋は強盗殺人であった。連日強盗事件を調べられ、嘘発見機にかけられ、強引な取調べを受けた。彼はそのことを克明に覚えていた。
私は裁判資料、彼の記憶と証言、奥さんの苦悩の日々を綴った日記などをまとめ、数ヶ月かけて本を書き上げた。
勿論、自らの体験もあるので、取調べ、代用監獄、拘置所、裁判所など基礎知識は十分だった。
彼の場合、最終的には詐欺罪で起訴された。しかし、彼の場合有罪となれば仮出所は取り消され、一生刑務所から出れなくなる可能性は大だったのである。
私はこの「徐才喜冤罪事件」を東京の出版社から出そうと、連日出版社回りをしていた。27歳の頃でした。しかし、どこの出版社からも断られた。もう諦めかけていたら、地元の雑誌社から連絡があった。
『政経東北』という政治・経済雑誌を出しているところでした。何故、政治・経済関連の出版社かと思いましたが、編集長と会って理解できた。学生運動で逮捕された経験のある元左翼活動家の方だったのです。
この雑誌社は私のこの「徐才喜冤罪事件」を連載で取り上げてくれました。私が精魂を込めて初めて書き上げた文章でした。大きな反響を呼び、高い評価を頂きました。
<殺人鬼>と呼ばれた「在日朝鮮人」の冤罪事件の告発が、私のデビュー作でした。私はこれまで何度も言ってきたように、在日朝鮮人に対する差別感情を持ってはいませんでした。
その私は今「在日朝鮮人」を批判し、特別永住制度廃止を訴えて選挙に挑もうとしています。また、この選挙がなければ私が「前科者の殺人鬼」などと呼ばれることもなかったでしょう。
この30年の時代の流れは、私の人生も大きく変えてきました。しかし、今回思ったことがあります。忘れてはいけないものがある。それは社会的弱者の目線であり、社会正義を貫こうとする至純な精神かも知れない。
なぜ、私が韓国が嫌いになり、また在日朝鮮人も嫌いになってしまったか。
私は昨年の6月頃は、このブログで嫌韓派と激しく論争していました。過去ログを見ればそれは明らかです。
http://blog.livedoor.jp/the_radical_right/archives/50875061.html#comments
この点についても、選挙に入る前に書こうと思います。別に嫌韓派に負けたわけでもなく、媚びたわけでもありません。正確に言うならば、韓国には愛想が尽きた。
在日朝鮮人に対しては目が覚めたとでも申し上げましょうか。実態が分かって嫌になったというか、危機感を持ったと言うべきかも知れません。
灰色のベンチの管理人もライターであるそうだ。どのようなキッカケでペンを持つことを決意したのか、裁判所でお会いした時に是非お伺いしたいものだ。
<殺人鬼>とは罵倒の言葉であっても、その言葉を投げつけられる人にも、他人には言えないつらい過去もあり、人生があることを少しは学ばなければならないだろう。
それこそが、ペンを持つ者の最低限の資格と言うものである。
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